更新日:2024年2月14日
ここから本文です。
鹿児島県は,全国で唯一,2つの世界自然遺産を有している自然豊かな地域です。世界自然遺産の「顕著で普遍的な価値」を将来にわたって継承していくために,世界自然遺産に登録された島(奄美大島,徳之島,屋久島)に暮らす高校生を対象として,必要な意識の醸成や行動変容を促すことを目的に自然体験交流学習を行いました。
参加者を募集したところ,14名の参加希望がありました。夏休みを活用し,8月7日~13日の6泊7日で各島を巡り,地域のエコツアーガイドや関係行政機関の職員の解説により遺産地域の視察を行う行程です。
実施前には,事業の目的や各島が世界自然遺産に登録された経緯,地域における保全活動の状況・課題など,オンラインで事前学習を2回行い,「準備万端。さあ出発!」という時,台風6号が奄美・屋久島地域に約3週間も停滞し,中止を余儀なくされました。
夏休み期間中では参加者等の日程が合わなかったため,10月20日~23日の2泊3日の行程で11名が参加して,奄美大島のみをフィールドに交流学習を行いました。
初日は,奄美市住用町にある奄美大島世界遺産センターで,世界自然遺産登録までの経緯や地域の取り組み,アマミノクロウサギなど奄美大島の固有の動植物について学びました。
同センターの職員に展示物を詳しく説明していただいて自然について学び,島唄も交えながら奄美の文化を学んだ後,カヌーに乗ってマングローブの生態や干潟の生き物について観察しました。ガイドさんの指導の下,まずは陸上でパドルの扱い方を学び,いざ,カヌーに乗船。隣のカヌーにぶつかりながら進む随行員(大人)を尻目に,スイスイ漕ぎ出す高校生達。
後から聞いた話ですが,ガイドさんは参加者が過度に疲労しないよう,その日の潮の満ち引きを計算しながらコースや見せる場所を決めるそうです。
二日目は,まず,奄美市の金作原国有林で,認定エコツアーガイドの案内により亜熱帯性の植物を観察し,利用ルールなどについて学びました。利用ルールとは,観光客の増加に伴う自然環境への負荷を低減するために導入されているものです。
ガイドさんからは,希少動植物の名前や特徴(私がメモした種だけでも30以上)や,土の中にいる微生物が数十年かけて土壌を形成しバランスを保つことにより,多様な生態系が維持されていることを教わりました。ここでも,ガイドさんの知識と経験に脱帽。
参加者は,希少な植物の写真を撮ったり,花の香りを確かめたり,鳥のさえずりを聞くなど,まさに五感で世界自然遺産を体感していました。
次に,大和村にある奄美野生生物保護センターで,ハブ退治のために輸入されたマングースや,ペットとして飼育されていた猫や犬が野生化したノネコやノイヌなどが,アマミノクロウサギ等を捕食して奄美の生態系に影響を及ぼしていることなどを学びました。
参加者は,環境省職員のマングース絶滅に生涯をかけて取り組む姿勢(熱意)や,ペットが野生化しないよう責任を持って飼うことの重要性に感銘を受けた様子でした。
夜は動物観察に出かけました。ガイドさんからアマミノクロウサギなど固有の動物の生態を学びながら,アマミヤマシギ,次にアマミノクロウサギ,アマミトゲネズミなどに出会うことができました。
動物に出会えても,車内では座席の関係で見えたり見えなかったり。車内はキャーキャー,ワーワー大騒ぎでした。
三日目は,龍郷町にある大島紬村で泥染め体験をしました。伝統的工芸品である大島紬の製造工程を学ぶとともに,参加者は,実際に泥田に入って泥染めを行い,それぞれのセンスが光るハンカチを製作し,楽しみながら奄美大島の伝統文化に触れることができました。
期間中は,三島村在住の大岩根 尚氏(株式会社musuhi)のコーディネートのもと,毎日「振り返り」を行い,学んだことや感じたことをグループ毎に意見交換し,自分の言葉で発表するなどしました。世界自然遺産の島に暮らす高校生が,自分達の目線で,自分達に何ができるかを真剣に考え,言葉にする姿はとても頼もしく感じました。
交流学習は,観光旅行ではありません。最終目的は,参加者に対して「世界自然遺産の価値を継承するために必要な意識の醸成や行動変容を促すこと」です。今回学んだことを参加者のみが得るのではなく,学んだことを同級生や地域の子ども達に伝えたり,自然環境の保全と活用について考え,地域のリーダーとして行動することなどを目指しています。
参加者の中には,交流学習の後,全校集会で活動報告を行った者,地域のエコツアーガイドと連携して自然体験活動を計画している者や,地域の小中学生を対象にガイドを行うことを計画している者もいます。
また,さすがのZ世代。SNS(インスタグラム)を活用して,今回の活動状況や各地の希少野生動植物の写真をアップするなど様々な活動を展開しており,今後の活動が大変楽しみです。