鹿児島県環境保護課
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記事1(屋久島世界自然遺産登録10周年記念シンポジウムを終えて)
平成15年10月28日,29日の両日に,世界自然遺産登録10周年を記念して,上屋久町の屋久島離島開発総合センターにおいて,「屋久島世界自然遺産登録10周年記念シンポジウム」を開催しました。
この記念シンポジウムには,島内外から2日間で約600人の方々の参加があり,屋久島の青少年による「これからの屋久島のあるべき姿」についての基調報告や作家立松和平氏による基調講演のほか,島内外の有識者によるパネルディスカッションなどを実施し,ガイドの登録制度を含めた今後のエコツーリズムのあり方や環境キップ制度,協力金制度などについて様々な立場,視点から議論いただき,これからの屋久島の取り組むべき課題について具体的な方向性が見出されました。
これらを踏まえ,入山料も含めた具体的方策について,地元関係者と連携を図りながら検討を進めていくこととしていますので,今後とも皆様方のご鞭撻,ご協力をよろしくお願い申し上げます。
屋久島世界自然遺産登録10周年記念事業実行委員会会長仮屋基美(鹿児島県環境生活部長)
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記事2(屋久島NOW-JICA研修生による屋久島レポート)
「屋久島の環境と振興の傾向」
屋久島の記録によると,屋久島には紀元前約2000年から1000年のころからの長い歴史がある。未開の屋久地区の人々が宮之浦の益救神社で祈りをささげたのは1000年ほども前のことだったろうか。彼らの生活は基本的に海と山と木に依存している。縄文時代の人々は屋久種子五葉松の木でくりぬき舟を作り海にでかけた。島の人々は屋久杉を伐採することを恐れ,木を切る前に神の許しを得ていた。屋久島の人々にとって,海はもっとも重要な天然資源の基本でありました。猟師は恵比寿神に大漁を祈る。このことは綱(ロープ)引きの儀式に象徴されている。また,強い龍の象徴ともなっている。大漁と無事に帰還することへの祈り。
このような物語や儀式的行事,式典,神々は,海,山,森を象徴している。これらが屋久島の基本的な環境的な要素となっており,これらの物語や儀式的行事,式典,神々の目的は環境の保護と活用である。これが屋久島における環境文化の象徴である。
屋久島環境文化には基本的に2つの考え方がある:環境と振興である。鹿児島県はこの考え方を全面的に実現してきており,屋久島の保護のためのプログラムをいくつかおこなってきている。
上屋久町と屋久町ではゼロエミッションという考えを達成するためのプログラムを実施している。この考えの下で,両町はリサイクルや電気自動車,エコツーリズム,エコ振興の推進といったプログラムを成功させている。このプログラムの結果,屋久島の環境はおおいに魅力を増してきた。これらのリサイクル活動のおかげで川,浜,小川,森はすべてとてもきれいである。
人々の意識,教育および知識は均衡の取れた振興をおこなうための重要な要素であり,環境と振興を同様に実行するための明確な方法である。この目的のために,屋久島環境文化村センター,屋久島環境文化研修センター,屋久島世界遺産センター,屋久杉自然館をはじめとするその他の機関が計画的な環境研究活動をおこなっている。これらの活動があるため,人々の態度,知識,行動が改善され,このことも屋久島環境文化の実現の一助となっている。
PremarathneDissaneyakeプリマラスネディサネヤケ(スリランカ中央環境当局環境天然資源省)
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記事3(「世界自然遺産会議」参加地域遺産コーナー・・・スリランカ国)(プリマラスネディサネヤケ)
シギリヤは,スリランカの有名な世界(文化)遺産の一つで,古代のカッサバ王が自分の宮殿として造り,岩の頂上に5世紀に造られた要塞都市である。(写真:シギリヤの岩=※密林から垂直にそびえ立つ岩)
UNESCOプロジェクトの支援のもとで最近行ったシギリヤの発掘調査で,スリランカはアジアにおける有数のすばらしい水の庭園を造っているという重要な考古学的なデータが判明した。シギリヤの水の庭園は「世界でも最古の庭園のひとつ」とされている。
スリランカは,水力文明の長い歴史を有しているが,さらに,水は清らかなもの,生命を与えるもの,また子孫繁栄の象徴と捉えた環境文化の伝統も有している。家庭用や農業用の水の保全を行うことは古代のスリランカの水力技術者にとって唯一の関心はなく,造園により,天然資源としての水の要素が,美しいものをさらに美しくすることも考えていた。
シギリヤの岩と周囲のスロープにある水の庭園は天然の岩と融合しているが,この広大な地域では,季節的な降雨を集めるために建物,棚田,池などの環境を独特に創り出している。この景観は,地形,水系,土壌,自然要素,機能的な必要事項,形状,環境,気候状況などを総合的に考慮して意識的に創り出したものである。これらは基本的な環境要素と考えられており,それを統合した環境と開発方法に適用させている。この統合的な方法によって,庭に植える植物を選定し,灌漑用の水路は陰の多い快適な環境を形成している。自然な植物,意識的,体系的に植栽した植物は日陰や涼しい場を提供し,生態的なバランスを維持している。
シギリヤが含まれるマハベリの開発計画は,過去数十年間においてスリランカの乾燥地帯の近代灌漑プロジェクトとしては最大のものであった。この最大灌漑プロジェクトのもと,乾燥地帯の大部分の森は伐採された。今までは,計画によってほとんどの固有の木々は保護されていなかったという事実を考慮すると,マハベリ計画により多くの外来種の木が外国から入ってきた。この植民地時代の景観をつくりあげた結果,環境文化的な価値を有する古来の技術と固有の木の利用を喪失してしまった。日本の鹿児島県で受けた地方自治体のための自然環境保護プログラム(研修)から私が得た経験と知識は,スリランカの世界遺産地域が現在直面している問題を解決するのに有用と考える。プリマラスネディサネヤケ(スリランカ中央環境当局環境天然資源省)
(編集者注:スリランカには,7つの世界遺産がある。今回の遺産地域紹介は,「環境文化」の観点から,スリランカを代表する文化遺産の「シギリア」を取り上げた。なお,スリランカの7つの遺産のうち,自然遺産は,「シンハラジャ森林保護区」がひとつである。)
記事4(鹿児島県の奄美群島が,我が国の「世界自然遺産登録候補地」に選定される)
日本国の環境省と林野庁は,2003年に,学識者で構成される「世界自然遺産候補地検討会」を開き,日本国の新しい「世界自然遺産」の候補地として,「知床(北海道)」,「小笠原諸島(東京)」そして鹿児島県の奄美群島を含む「琉球諸島(鹿児島県,沖縄県)」の3ケ所を世界自然遺産の登録基準に合致する可能性が高い地域として選定した。今後は,各々の保護区設定の状況など法的,社会的な条件を見極めながら正式に推薦することとなるが,2004年1月30日には,まず,「知床」について,パリのユネスコ日本政府代表部からユネスコ世界遺産センターに推薦書を提出した。
以下,同検討会の最終報告の一部を掲載する。
「世界自然遺産候補地に関する検討会について」平成15年5月26日(月曜日)
世界自然遺産候補地に関する検討会座長岩槻邦男(検討会の議論の経過)当検討会では,3月3日(月曜日)から本日まで,これまで4回にわたって世界自然遺産の候補地に関する検討を行ってきた。検討会においては,我が国における自然環境の観点から価値の高い地域をできる限り広く検討対象とした上で,世界遺産条約上の世界自然遺産の登録基準への適合性を詳細に検討するため,面積要件や人為的改変度等により,19の詳細検討対象地域を抽出し,当該地域について詳細な検討を行った。
(検討の結果)
詳細検討対象地域について,現時点で得られる知見,情報等に基づいて学術的見地から検討を行った結果,現段階では,以下に記述する3地域が,世界遺産条約に定める登録基準と完全性の条件を満たす可能性が高いものと考えられる。しかしながら,これらの地域はそれぞれ課題もあり,直ちに世界遺産候補地として推薦できる状況にあるわけではない。このため,今後,環境省及び林野庁等の関係省庁においては,地元自治体等関係者の意見を聴き,社会的条件も含めて更なる調整・検討を行い,その中で条件の整う見込みのついた地域については,世界自然遺産候補地として推薦されることを期待したい。
(世界自然遺産の登録基準に合致する可能性が高いと判断された地域)
知床は,流氷が育む豊かな海洋生態系と,原始性の高い陸域生態系の相互関係に特徴があり,オオワシ・オジロワシ・シマフクロウといった世界的な絶滅危惧種の重要生息地となっているという点が評価され,登録基準に合致する可能性が高いと判断されたものであるが,そうした価値を保全するためには陸域と海域を含めた統合的な管理計画の策定の必要性について,今後の課題として指摘があった。
小笠原諸島は,多くの固有種・希少種が生息・生育し,特異な島嶼生態系を形成している点が評価され,登録基準に合致する可能性が高いと判断されたものであるが,移入種対策を早急に講じる必要があるほか,最も重要な地区の一部はいまだ十分な保護担保措置がとられていないことからそれらの解決は喫緊の検討課題であるとされた。
琉球諸島は,大陸との関係において独特な地史を有し極めて多様で固有性の高い亜熱帯生態系や珊瑚礁生態系を有している点,また優れた陸上・海中景観や絶滅危惧種の生息地となっている点が評価されたものであるが,絶滅危惧種の生息地など,重要地域の一部はいまだ十分な保護担保措置がとられていないことからそれらの解決は今後の検討課題であるとされた。
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記事5(編集後記)
編集後記
屋久島が,世界自然遺産に登録されて10年が過ぎました。
今や,テレビや雑誌などのマスコミにも数多く取り上げられ,世界からツーリストが訪れる島となりました。
今後とも,屋久島の自然環境の保全を図り,人と自然が共生する屋久島ならではの個性的な地域づくりに取り組んでいきたいと考えています。