鹿児島県環境保護課
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記事1-1(屋久島憲章)・・・編集者前語り
屋久島憲章について
屋久島が世界自然遺産として登録されたのは1993年12月だが,同じ年の8月,屋久島にある2つの町,上屋久町と屋久町の町議会は,歴史的経緯をふまえ,住民総意のもと,屋久島の貴重な自然を生かした地域づくりとそれを保全することを目標とした「屋久島憲章」を制定した。
現在の屋久島島民の環境保全に対するよりどころとなっている。
記事1-2(屋久島憲章)・・・全文
屋久島憲章
(屋久島憲章前文)地球と人類の宝物である屋久島
この島は周囲132km、面積503平方Kmの日本で5番目に大きい島である。
屋久杉を象徴とする森厳な大自然に抱かれ、神々に頭をたれ、流れに身を浄め、大海の恵みに日々を委ねて人々が生きた島。
この島は、はるかな昔から人々の魂を揺さぶりつづけ、近世森林の保全と活用で人々が苦しみ葛藤した島である。そして今、物質文明の荒波をようように免れた屋久島は、その存在そのものが人間に対する啓示であり、地球的テーマそのものである。
この島に住む私たちは、この屋久島の価値と役割を正しくとらえ、自らの信念と生きざまによって、この島の自然と歴史に立脚した確かな歩みを始める。そのため、この島の自然と環境を私たちの基本的資産として、この資産の価値を高めながら、うまく活用して生活の総合的な活動の範囲を拡大し、水準を引き上げていくことを原則としたい。
この原則は、行政機関はもちろん、屋久島に係わる全ての人々が守るべき原則でありたい。
国の自然遺産への登録も、鹿児島県の環境文化村構想も、この原則を尊重し、理想へ向けて、その水準を高く100年の計を誤らず推進されることを願うものであり、これを契機として、次のことを目標とし、ここに屋久島憲章を定めます。
(条文)
1.わたくしたちは、島づくりの指標として、いつでもどこでもおいしい水が飲め、人々が感動を得られるような、水環境の保全と創造につとめ、そのことによって屋久島の価値を問いつづけます。
2.わたくしたちは、自然とのかかわりかたを身につけた子どもたちが、夢と希望を抱き、世界の子どもたちにとって憧れであるような豊かな地域社会をつくります。
3.わたくしたちは、歴史と伝統を大切にし、自然資源と環境の恵みを生かし、その価値を損なうことのない、永続できる島づくりを進めます。
4.わたくしたちは、自然と人間が共生する豊かで個性的な情報を提供し、全世界の人々と交流を深めます。
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記事2(世界自然遺産会議参加自治体からのJICA「日本国際協力事業団」視察員受け入れ)
この事業は,JICAと共同で実施しており,今回,タイとベトナムからの視察が行われ,11月14~15日は,鹿児島県庁において,県施策等の説明を受け,桜島等の視察も行った。11月17~21日は,視察場所を屋久島に移し,屋久杉自然館,屋久島環境文化村センター,屋久島世界遺産センター,永田浜等の視察をした。また,エコツアーも体験し,最終日には,「西部林道」地域に足を踏み入れることができた。視察員からの感想としては,「この視察で見学した施設での展示物や説明文の配置など見せ方の工夫は自国で役立つと思う」「屋久島の管理等について,自国で適用できるものもある」などが挙げられた。
記事3(「世界自然遺産会議」参加地域遺産コーナー・・・ベトナム国「ハー・ロン湾」)
世界遺産のハー・ロン湾は,何億年も要する複雑な地質形成を経た,カルスト地形の傑作であることから,世界の自然の中でも驚くべきもののひとつである。1994年と2000年の2回に亘って,世界自然遺産に認定された。その島や沿岸は,人間や多種の生物にとって広範囲の生態系を供給している。
●ハー・ロン湾において,世界自然遺産に関係がある現在の問題としては,「観光事業開発」と「自然遺産地域の管理と保護に影響する要因」の2点がある。
・「観光事業開発」
ハー・ロン湾はベトナムにとって,重要な観光拠点である。それは,より良い自然の風景や生物多様性,そして,特に,古代から絶え間がない文化的な歴史を持っている地域であり,多くの貴重な考古学の痕跡が発見されている。また,そこに生活する人の異なった習慣と伝統的な文化を維持していることは,ハー・ロン湾に観光事業を今後も発展させる可能性がある。
・「自然遺産地域の管理と保護に影響する要因」
ハー・ロン湾は,急速に開発が進んでいるハー・ロン市の横に位置しており,輸送や港湾,また石炭採掘・都市化・漁業活動と観光開発といった産業活動要因が,ハー・ロン湾の管理と保護に影響を与えている。
●(世界自然遺産に登録されてからの)6年間になされた管理施策と保護
・ハー・ロン湾(自然保護の)管理事務所の設立
・効果的な管理方策の強化
・世界自然遺産の価値を強化する投資と活動
・環境保護のプログラム作成
・コミュニケーションや教育,科学的な研究の実践
・国内・国際機関との関係強化や交流・協力
世界自然の管理・保護については,世界自然遺産に登録されてから,様々な計画が進行している。しかしながら,現実的には様々な課題が残されており,今後も必要な方策を検討していかなければならない。
(原稿執筆:ベトナム,クァンニン省)
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記事4(クイーンズランド州からの世界自然遺産専門家招請について)
第2回の世界自然遺産会議は,オーストラリアクインーズランド州で開催される予定となってるが,鹿児島県では,2001年10月に,そのクインーズランド州から,ピーター・オギルビー氏を屋久島に招き,講演会等を開催した。ピーター・オギルビー氏は,クインーズランド州の公園・野生生物局のマネージャーとして,自然公園や世界遺産地域の保護や管理などの業務に携わっている。
まず,ピーター・オギルビー氏は,10月4日に屋久島高校(宮浦中学校,小瀬田中も参加)で,5日に岳南中学校と安房中学校で,クインーズランド州の世界自然遺産の紹介や青少年の環境教育の現状等について,講演を行った。講演は,クインーズランド州における同世代の生徒たちの,自然環境を保護するための活動実態や環境学習においてどのような授業を受けているか等,生徒の視点に立った内容で,生徒たちは熱心に聞き入っていた。
6日は,実際に白谷雲水峡と安房川でエコツアー体験を行い,その後開催されたエコツーリズム関係者との意見交換会においては,50名を越える参加者があり,ピーター・オギルビー氏から,オーストラリアのエコツーリズムの実態や法整備など詳細な内容について講演がなされた。
その中では,
・ガイドは認定制になっており,公的機関も関与して,様々なプログラムを開発している。
・公的な土地で営利を得る場合,その土地の管理と保護に貢献すべきという考えに基づき,ガイドの認可手数料や案内したツアー参加者数に応じた料金を納める。など,国際的な先進地としての取り組みが紹介された。この招請は,世界自然遺産の屋久島にとって,非常に有意義なものとなった。
記事5(屋久島NOW-ヤクシマシャクナゲの山戻し)
2001年11月24日,屋久島環境文化財団は,種子から育てた苗の山戻しを行った。
屋久島自生の固有変種のヤクシマシャクナゲは,つつじ科の植物で,他のシャクナゲの花弁が7枚に対して,合着したものが5枚であるところに特徴がある。つぼみの時に赤色,開花後数日だけピンク,その後白色へと変色し,ほぼ3年ごとに花の多く咲く年が巡ってくる。5月から6月にかけてが開花時期である。
最近になりその自生地が減少していることから,人々が身近に鑑賞できる場所に植栽することにより,屋久島の自然を愛し,大切にする心を育むこと等を目的にこの貴重なヤクシマシャクナゲを種子から育てることにし,林野庁の屋久島森林環境保全センターと共同で,1995年に黒味岳周辺で種子を採種し,国有林内で約6年かけて育苗した。全国から集まった参加者は,縄文杉への登山道の途中にある小杉谷地区に到着し,一本ずつ大切に植栽をした。
記事6(編集後記)
今号では,「屋久島憲章」を特集した。「屋久島憲章」は,屋久島に係わる地域住民や行政関係者,議会関係者,教育関係者,マスコミ関係者などが,一体となって創り上げたもので,制定時には,屋久島憲章全文を印刷した10年分のカレンダーが島内全世帯に配布されたとのこと。屋久島憲章に対する,屋久島の住民の方々の思いが伝わってくる。
次回号の発行は,2002年10月を予定している。このニューズレターについてのご意見,ご提案は鹿児島県環境保護課までお願いします。