農作業安全の手引き(就業条件・危険箇所作業)
農作業事故の4つの要因
農作業事故は次の4つの要因が絡み合って起こっています。
- 安全管理上の欠陥
経営者が作業現場の危険を取り除き作業行動や作業内容の危険防止対策を怠ること。
- 労働者の不安全行動
労働者が危険な行動を起こしたり,保護具を着用しなかったり,危険な場所に接近すること。
- 作業現場の不安全状態
傾斜地,高所,狭い,酷寒,酷暑などの危険が予測される作業現場のこと。
- 欠陥機械・施設
整備不良の機械や施設,安全フレームのないトラクタや動力伝導部の防護カバーがない機械など安全面で欠陥をもつ機械のこと。
災害発生要因の相関関係

起こりうる危険を事前に予知し,要因を取り除いていくことが,農作業事故を未然に防止する基本対策です。
また,作業能率よりも安全を優先し,安全確保に先手を打っていく必要があります。
4つの要因に係わる対策として,次のような対策が必要です。
- オーバーワークや危険な作業はしない・させない
- 毎日の作業開始前にその日の作業の危険を予知するミーティングを実施する
- 農作業の段取りをよく考える
- 家族や雇用労働者から事故防止の意見を聞く
- 安全な作業環境を整備する
- 保護具を着用する
- 保護具や農業機械の安全点検,健康管理活動を実施する
そのほか,農業者の身体的,精神的に安全で快適な就業条件や作業環境整備についてまとめましたので,農作業事故の防止対策に活用してください。
安全・快適に農作業を行うための就業条件
1安全に農作業を行うための基本事項
- 農作業従事者は,日頃から安全意識を持ち,農業用機械・器具の日常点検や適正な操作等をはじめ周辺環境にも配慮して安全な作業の実施に努める。
- 雇用を行った場合は,雇用主として,雇用労働者に対する安全性を確保する。
- 農作業従事者及び雇用主は,農作業安全に関する研修・講習会等へ積極的に参加し,安全意識を高めるとともに労働基準法,労働安全衛生法,農薬取締法,道路運送車両法,道路交通法等の関係法規を遵守し,安全な農作業に努める。
2農作業に従事する者の制限
次に掲げる者は,機械作業,高所作業等危険を伴なう作業に従事しない,又はさせないこと。また,それ以外の作業でも,必要に応じて作業内容を制限すること。
- 飲酒し,酒気を帯びている者
- 薬剤を服用し,作業に支障がある者
- 病気,負傷,過労等により,正常な作業が困難な者
- 妊娠中及び産後1年を経過していない女性(特に当該作業により,妊娠又は出産に係る機能障害等健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる者)
- 年少者(労働基準法では18歳未満を指す)
- 作業未熟練者(熟練者の指導の下で行う場合を除く)
- 機械操作や化学物質等を取扱う作業において,必要な資格を有していない者
3女性,青少年及び高齢者への配慮
- 妊産婦及び年少者に重量物運搬,高所作業,著しい振動のある作業,薬剤取り扱い作業,深夜作業(午後10時から午前5時まで)をさせない。
- 女性農業者の農業機械操作の機会が多くなることが予想されることから,農業機械操作や安全対策に関する研修の機会をつくる。
- 高齢者は加齢により心身機能が変化することを踏まえ,高齢者自身やその周辺の者は安全意識を高め,作業分担,作業方法等について配慮する。
加齢に伴う身体的・精神的諸機能の低下

4計画的な作業の実施
- 1日の作業に入る前には準備運動を,作業後には整理運動を行い,体調を整える。
- その日の気候条件や作業者の体調を勘案して,無理のない作業を行い,複数で作業を行う場合は,事前に作業の打ち合わせを行う。
- 年齢,体力に応じた労働時間の配分と適正な作業時刻(早朝6時以降,夜間午後8時以前)を設定し,1日の作業時間が8時間を超えないように努める。
- 疲労が蓄積しないよう定期的に休憩を取るとともに,ゆっくりと休憩がとれるよう休憩室やトイレを設置する。
労働配分の目安(時間)
性別 |
年齢別 |
ライフサイクル別 |
労働能力 |
平常期(1日) |
繁忙期(1日) |
男
女
男女
女 |
16~65歳未満
16~65歳未満
65歳以上
16~35歳 |
共通
共通
共通
育児 |
1.0
1.0
0.4
0.4 |
8
7
3
3 |
10
9
4
4 |
休憩 |
作業時間2~3時間に休憩20~30分
・作業内容別作業間休憩
軽い作業作業60分に休憩10分
持続作業作業時間2~3時間に休憩15~20分
重い筋作業作業時間30~60分に休憩10~30分 |
5健康管理
- 適当な休養をとり,定期的な健康診断を受ける等,日頃から健康管理に努める。
- 疾病がある場合には,医師等健康管理の専門家に相談し,健康状態によっては作業を休むか,作業の手順や分担を見直す等,事故発生につながらないように配慮する。
6農作業の点検・改善
- 日頃から作業手順,作業環境や危険箇所についてチェックを行い,作業方法の見直しや作業現場の改善,危険箇所の表示等,安全で効率的な農作業を行うための対応が必要である。
- 危険度の高い作業を行う場合には,作業者の負担の軽減や早期に危険な状況を知らせる補助者を配置する等,1人での作業はできる限り行わないようにする。1人での作業を行う場合には,作業内容や作業場所,作業時間を家族等に知らせておく。
7農作業事故への備え
- 万一の事故に備え,緊急時の連絡体制を確認しておく。
- 応急処置の知識を身につけ,救急用具の保管場所を確認しておく。
8労災保険等への加入
- 農作業事故が発生した場合に備え,労災保険(労働者災害補償保険)に加入し,必要に応じて傷害共済等各種の任意保険にも加入しておく。
雇入れ時教育の義務化(令和6年4月1日施行)
労働安全衛生法第59条第1項において「事業者は労働者を雇い入れたときは,当該労働者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行わなければならない」旨を規定している。
雇入れ時教育の実施に当たり,農業については,これまで機械の取扱い方法等の一部項目を省略することができることとされていたが,今般,この省略規定が廃止され,令和6年4月1日より全業種で義務化された。
【雇入れ時教育の項目】
- 機械等,原材料等の危険性・有害性・取扱い方法
- 安全装置,有害物抑制装置,保護具の性能・取扱い方法
- 作業手順
- 作業開始時の点検
- 業務に関して発生するおそれのある疾病の原因・予防
- 整理,整頓及び清潔の保持
- 事故時等における応急措置・退避
- その他当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
農林水産省では,雇入れ側農業者向けの「教育教材」と雇われ側農業者向けの「リーフレット」を作成し,ホームページで公開している。
農作業安全に関する研修資料及び啓発資料>雇入れ時教育(外部サイトへリンク)
危険箇所での作業及び危険箇所の整備
1高所での作業
高所からの墜落・転落事故の内容は,施設の屋根から転落,機械からの飛び降り,脚立の転倒などである。また,高齢者は平衡感覚や脚の筋力が衰えてくるため,不安定な場所で転倒しやすくなるので注意が必要である。
- 高所作業を極力なくし,地上で作業ができるようにする。
- 頻繁に行く必要のある高所には,足場や階段,リフター等の昇降施設を設けるとともに滑り止めや手すりを設置する。
- 梯子,脚立は完全なものを用意し,伸縮,折り畳み式のものは,しっかりロックして使用する。
- 高所作業ではヘルメット,安全帯,命綱を使用し,靴は滑りにくいものをはき,泥を落としてから作業を行う。
- 高所と地上の共同作業では,お互いに連絡を取り合い,落下物の防止に注意する。
- 昇降は,荷物を背中に背負うなど,極力両手が自由な状態で行う。
- 強風時には,作業を中止する。
2挟まれ事故の危険性が高い箇所
機械と柱や壁,樹木との間に挟まれる等の危険防止に努める。
- 機械と柱や壁,樹木との間に挟まれないよう,必要な間隔を取って作業を行う。
- ハウスや倉庫等の屋内では十分な作業スペースを設ける。
- 狭い場所で自走式機械を使用して複数人数で作業を行う場合には,合図を決め,安全を確認しながら行う。
- 樹園地等では,作業に危険な樹木の枝等は切り,支線には目印をつける。
3酸欠等の危険がある閉鎖空間
酸欠,ガス中毒事故の起こりやすい場所として,飼料用サイロ,糞尿処理タンク,半乾籾貯蔵の穀物層,揚水用地下井戸,機械整備中の格納庫がある。
- 酸欠等の危険性がある場所で作業を行う場合には,複数人数で行うとともに作業場所,作業時間を家族等に知らせておく。
- 換気窓や換気装置を備え,入室前に十分に換気を行う。
- 酸欠のおそれのある場所に入る前には,酸素測定器で酸素濃度等を確認する。
- 有毒ガスが発生する可能性のある場合には,対応した防毒マスクを着用する。
- 糞尿タンク,サイロ等では,すぐ脱出できるように安全帯を着用し,梯子をかけてから入室する。
- 関係者以外が立ち入らないように「立入禁止」等の表示をする。
- 万一の場合に備えて,心肺蘇生法等の知識を身につけるとともに緊急時の連絡体制を確認しておく。
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